夏図鑑「風鈴」

GX115_72A.jpg夏の夕暮れに、どこからともなくチリンチリンと風鈴の音が聞こえてくると、その日、一日の暑さも忘れられるほどの涼味を覚えるもの。東京ならガラス製の江戸風鈴、東北・岩手なら鉄製の南部風鈴、北陸・富山なら真鍮製の高岡風鈴など、日本各地には、さまざまな材料でつくられた風鈴がある。古代中国で、家の四方に鐘を吊るし、魔除けとしたのが風鈴のルーツといわれている。たしかに、金属製の風鈴は、お寺の鐘のようなかたちをしたものが多い。ちなみに、中で揺れて音を出す部分は「舌(ぜつ)」と呼ぶそうだ。さて、中国から伝来した風鈴は、鎌倉時代に上流階級のあいだで流行したと伝えられている。いわば「セレブの人気アイテム」だったわけだ。時代がくだり、庶民たちも風鈴の涼しげな音色を楽しむようになる。江戸の街には風鈴を売り歩く人もいた。じつは、「金魚売り」などの物売りと、「風鈴売り」には、ひとつ大きな違いがある。それは「売り声がなかった」こと。売り歩く「風鈴の音」こそが、「何よりの売り声」だったというわけだ。