夏図鑑蚊遣り

GX126_350A.jpg夏の夕方、縁側で将棋を指していた親父が、駒音ではない「パチッ」という音が聞こえたかと思ったら、「おーい、蚊遣りを頼む」と言い、お袋が「はいはい、いま、持っていきますよ」などと答える……そんな光景が記憶にないだろうか。そして、現われるのは、陶器でできたブタで、そのなかには渦巻き型の蚊取り線香から煙が上がっている。いまどきは、電気式の「蚊取り」ばかりだが、かつて、どこの家庭にも、あの「ブタ」がいた。その背中の内側は茶色く染まっていて、さわったりした日には、手はベタベタになり、ニオイも取れず、あとでたいへんな思いをする。蚊取り線香は、シロバナムシヨケギク(いわゆる「除虫菊」)というキク科の多年草を原料としてつくられていたが、それは明治時代以降のこと。江戸時代までは、松や杉の葉を燃やすなどして、煙で蚊を追いやっていた。まさに「蚊遣り」である。屋外では、藁や蓬を燃やし、その煙によって、蚊遣りをしていた。「蚊火」と呼ばれ、蚊だけでなく、ブヨなどを追い払うのにも役立っていたと伝えられている。また、蚊取り線香は一般には6〜7時間燃焼するものが多く、煙が蚊を殺すと思われがちだが、実際には燃焼部分で高温により揮発する目には見えない化学物質のピレスロイドに殺虫作用がある。